はろうぃん〜ブルースサイド〜

 

 街中にカボチャが溢れるこの日の夜だけは、ゴッサムの犯罪者達もジャックに遠慮し、大

っぴらに罪を犯さないらしい。

 街が闇に包まれるとすぐの早めの時間から始めた慈善活動は、家々を尋ね歩く子どもたち

の楽しそうな声を聞くだけで特にコレと言った事件はなかった。

 子どもたちの明るい笑い声を聞いていると、自分も同じように家々を仮装して回っていた頃

が懐かしく思い出された。よみがえった優しい思い出に背中を押され、珍しく暖かな気持ちで

この日は早めの帰路に着いた。

 早めに帰ってきたおかげで、スーツを脱ぎシャワーをあびて着替えても、まだ宵のうちとい

った時間だった。アルフレッドが入れてくれた薫り高い紅茶には、この屋敷ではめったに目に

しない色とりどりのお菓子が添えられている。この屋敷に入り浸っている男のケープによく似

た鮮やかな赤い色の包みをむくと、白く蝙蝠が描かれた、チョコレートが転がり出る。口に放

り込むと何とも言えない甘さが口の中に広がった。

「・・・余ったのか?」

「ええ。少しですが。それにまだお菓子をもらいに来る方が残ってらっしゃいますし。」

「・・・・・・?」

怪訝な顔でアルフレッドにその人物を尋ねようとした時、扉を叩く音が聞こえてきた。

 アルフレッドが扉を開けると、そこには見覚えのありすぎる姿が立っていた。見覚えが有り

すぎて目眩がするほどだ。

「TRICK OR TREAT!」

どう聞いても成人男性の声でこの台詞を言われても、リアクションに困るだけでかけらも可愛

らしくない。しかもよりによってこの男は”バットマン”の格好をしていた。

「・・・帰れ。」

冷たく言うと同時に扉を閉めると

「酷いよ!ブルース!!お菓子をくれないならイタズラしちゃうよ!!!」

今晩は誰が屋敷の外をうろついているとも知れず、うるさく騒ぐ男をそのままにしておくわけ

にもいかず、しぶしぶながら再び扉を開けた―――。

 

早速中へ入ってきた男は私の姿を見るなり疑問を口にする。

「あれ?ブルースは仮装しなかったのかい?」

「いい年した男がするようなことではないだろう。それよりその格好でここまで来たのか?」

「うん。色が黒いから目立たないしね!」

 そう言って笑うこの男には何を言っても無駄であると悟った。このときアルフレッドに、菓子

の残った籠を差し出される。なるほど。この男のための菓子だったのか。

 籠の中には色とりどりのお菓子がまだ残されていたが、面倒くさくなった私は籠ごとクラーク

に押しつけた。

「ほら、ご希望のお菓子だ。」

押しつけるなり再び扉を開けて外を指し示す。

「ま、待って」 

「・・・なんだ?お菓子ならもうやったぞ?」

籠を抱えたままで情けない顔をしたクラークは

「・・・僕が君に会いに来たことくらい知っているくせに・・・」

と、でかい図体で盛大に拗ねてみせる。うっとおしいことこの上ない。

ため息混じりに自分より一回り大きな”バットマン”を追い出すことを諦めた―――。

 

 アルフレッドが入れ直してくれた紅茶を二人で飲みながら、籠のお菓子をつまむ。熱い紅茶

を飲みながら向かいに座った男をまじまじと私は観察した。流石にマスクははずしたが、それ

以外も見た目はなかなか精巧に出来ている。

「どこで手に入れたんだ?そんな衣装・・・。」

「最近の仮装グッズはよくできてるんで、デパートで見かけた時に思わず買っちゃったんだ。

それにホラ。」

いつの間に取り出したのかその手には、”スーパーマン”の衣装がのっている。

「・・・・・・まさかと思うが・・・。」

「もちろん君の分を買ってきたんだよ。僕のをかしてもいいんだけどサイズが合わないし。

・・・であわよくば着てくれないかな〜なんて。。。」

するどく睨んでやると

「やっぱりだめか。」

とそう気落ちした風でもなく肩を竦める。

 その様子を眺めていたら、同じ衣装を着ているせいか普段はあまり気にしない、私よりも微

妙に勝った体格がよく分かった。地球の重力なんて感じてないくせに、楽々とこの体格を保っ

ていられるのだ。この男は。

 じろじろ眺めていると、その視線に気が付いたのか

「やっぱり似合わないかな?」

と困ったように聞かれた。

「いや。結構似合っているさ。お前が着ているととても闇の化身には見えないがな。だが、い

つもの方が似合ってはいるな。」

「君はきっとこの衣装も似合うよ。」

と、まだ名残惜しそうに赤と青の鮮やかな衣装を撫でている。

「・・・そんなに見たいのか?」

「うん!すっごく!!」

きらきらした瞳に真っ直ぐ見つめられながら断言されると、頑なに拒んでいるのが馬鹿らしく

なった。

「・・・・・・かせ。」

「え?」

「一度だけだぞ。すぐ脱ぐからな。」

「いいの!?」

 未だ信じられないような表情をしている男から衣装をひったくると、隣の部屋へ行って着替

えた。もちろん「覗くなよ!」と言い含めるのを忘れずにだが。

 衣装は身につけてみると想像以上に身体にぴったりとフィットし、本物でないにしろ決して安

物ではないことが伺える。新聞記者というのはそんなにもうかる職業なのだろうか。

 ケープまで身につけると扉を開ける。そこには再びマスクをつけたクラーク”バットマン”が

立っていた。

「思った通りだ!とても似合うよ!!いつも隠れてしまう青い瞳が見えて素敵だ!」

「・・・瞳もなにも何も隠す物がないからな。なんだか落ち着かない。よくこの衣装で平気だ

な。」

「そうかい?僕は最初からコレだからあまり気にしたことがないなぁ。それより君が着るとこの

衣装、すごく鎖骨が色っぽいね。」

何を馬鹿なことを、と鼻で笑おうとしたがいつのまにか距離をつめていたクラークに、鎖骨へ

口付けられ声がうわずりそうになり押し黙る。この衣装では顔が赤くなっているのがまるわか

りで居たたまれない。

 見慣れたマスクから覗く同じくらい見慣れた口元が、正義の味方とはとても思えないような

笑みを浮かべる。マスクに隠れた瞳もおそらく同様の笑みを浮かべていることだろう。

「TRICK OR TREAT?」

再び囁かれたその声は、多分に色を含んだものでゾクリと背筋に何かが走る。

表情を隠す物がないことに慣れず、照れ隠しに

「っっっ!!さっきやったろう!」

と胸を押しやるが、逃す気のない時のこの男はビクともしない。

「もっと甘い”お菓子”が食べたいな、ブルース。うんと甘いの。」

甘ったるい声で囁きながら、何度も唇を奪われる。今夜はハロウィンだ。いつもと違う自分に

なっても罰はあたるまい。

「仕方がない。イタズラをしない代わりに”お菓子”は好きなだけ食べろ。」

「好きなだけいいの?」

「ああ。好きなだけ。」

「ではいただきます。」

そう言って抱き上げられた次の瞬間はベッドの上だった―――。

 

     *   *   *   *   *

 

 情事の後の気怠い身体を、シーツに投げ出しているのはたまらなく気持ちが良かった。まし

てやそこが暖かな腕の中とあればなおさらだ。今日くらいはこの街の住民も穏やかな夜を過

ごすのを願いながら、誘われるまま眠りの世界へと入って行った―――。

 

 

 次の日、学校から帰ってきたディックはおやつを食べている最中に、ふとアルフレッドが持

ているものに目を留めた。昨晩友達の家に泊まりに行く前には確実になかったものだ。気に

なって近づき良くみると、どうやら”バットマン”と”スーパーマン”のコスチュームだ。まさか本

物であるわけもなくそうすると、昨晩のハロウィン用の衣装なのだろうか?手にとって広げて

みると、明らかにディックにはサイズが大きい。

「・・・誰が着たの?コレ。」

 困った笑みを浮かべるだけで答えてくれないアルフレッドにはっきり事情が飲み込めたディ

ックは、どちらがどっちを着たのか頭を悩ませることとなった―――。

 


先日LOFTで見かけたハロウィン衣装に触発されてこんな妄想が。

あったのはスーパーマンのものだったんですがバットマンのもあったらいいのにと思ったらこ

んな話になりました。

うちの坊ちゃまは本当にクラークのことが好きだなぁ。

ディック初出し。

 



     
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