〜再開〜

 

 

 月が明るく輝き、全てのものが作り出す影はその闇をより濃くしていた。

 この日アルは珍しく裏路地を出て夜の街を彷徨っていた。ビルとビルの合間

にできた闇を渡りながら、ひんやりとした夜風に身をまかせる。人ではなくなっ

た今も、夜風は生前と変わることなく己を吹き抜けてゆく。

 しばらく気のむくまま彷徨っていたが、目に付いたビルの屋上にあった貯水

タンクの影で一休みすることにした。

 見上げた夜空の月は明るく、星達も負けじと輝いている。眠ることのない都

会の夜空もそれなりに楽しめるものだ。ぼんやりとマントにくるまり夜空をしば

らく見上げていると、鎖が何かを気にしていることに気付いた。

 鎌首をもたげ、ある方向に興味を示している。敵意に対しての反応ではない

が、どうも気になるらしい。その方向にはどっしりとしたホテルがそびえたって

いた。どうせ時間は有り余る身だ。アルは気まぐれに鎖の興味を満たしてやる

ことにした―――。

 

 鎖が導くまま一つの部屋のバルコニーに降り立つ。相当グレードの高い部屋

らしく観葉植物のふんだんに置かれたそこには、テーブルや椅子まで配置さ

れ、夜景を楽しむことができるようになっている。

 アルは豊かに繁る観葉植物の影に身をひそめると、部屋の中をガラス越し

に鎖と共に覗きこんだ。

 もう夜も遅いせいか部屋の主はベッドに入っているようだが眠ってはいない

様子だった。じっと見ているとベッドの上の人物がしなやかに上半身を起こし

た。まだ若い男で、しぼられた明かりの中よく鍛えられた身体が白く浮かび上

がる。何も身につけていないらしく気怠げな仕草で辺りを探り、ナイトガウンを

引き寄せた。

 その仕草を目を凝らし観察していたアルは、白い身体に赤い印が散っている

ことに気が付く。そういえばけだるげな動作も、ついさっきまで身体を重ねてい

た熱が冷めやらぬようにも見える。

 しかしながら部屋の中には彼一人の気配しかなく、他の人間はいないよう

だ。アルはつい先程まで確かにいたのであろう相手が、どこに行ったのか少し

不思議に思った。

 そのような事をつらつら考えているうちにナイトガウンを羽織った彼は、どう

やらシャワーを浴びるらしくバスルームに向かった。そのナイトガウンの丈が

彼にはどうも短すぎるのも気になったが、よほど酷使したのか腰を押さえつつ

の危なっかしい足取りには、もっとはらはらさせられた。

 案の定何かに足をとられたのか大きくよろめく。倒れる!と驚いた拍子に、

隠れていた観葉植物を薙ぎ倒してしまった。いくら闇に溶け込んでいてもこれ

だけ派手な物音をたててしまったらどうしようもないだろう。首を竦めつつ男見

やると、こちらを鋭く睨む瞳と目があった。諦めたアルは立ち上がり全身を彼

の前に現した―――。

 

 スポーンとしての姿を見た大抵の者は、恐れおののき己と異なる存在を嫌 

悪する。

 が、この男はスポーンの姿を目にすると僅かに驚いたようだが、特に恐れや

嫌悪などを見せず、近づいて来た。バルコニーへと続くガラス戸を開け放たれ

ると逆にアルが後ずさる。外へと踏み出そうとする彼に更に後ずさろうとした

が、自分がなぎ倒した観葉植物達に阻まれなしえなかった。どうしたものかと

マスクの下で困惑していると、男が口を開いた。

「こんなところで何をしているんだ?アル。」

薄く形の良い唇の動きとその声を聞く内に、アルの中で思わぬ人物の名が浮

上してきた。

「・・・・・・バットマン・・・・・・?」

半信半疑でその名を口にすると

「なんだ。知っていて来たわけではないのか?てっきり顔の仕返しに来たのか

と思ったぞ。まあ、それにしてはお粗末な訪問だが。」

相も変わらぬ偉そうな口調で言われる。その台詞からは、彼がアルの顔を割

った事実をみじんも気にしていないことが伺えた。

「べ、別に仕返しなんて考えてもなかった。ただ夜の街を歩き回っていたら、

この鎖が興味を示して、それで・・・」

「それで痴漢よろしく覗いてたのか?」

アルは返す言葉もなく身体を小さくした。そんな様子をみたバットマンは

「攻める気はないからそんなに小さくなるな。らしくない。」

そう言って艶めいた笑みをこぼす。

さっきは薄明かりだったのでよく見えなかったが、マスクをとったバットマンは

っくりするほど整った顔立ちをしていた。アルは生前もこのような”綺麗”とい

言葉がしっくりくるような男に会ったことがなく、笑いかけられると男と知りつ

も見惚れてしまった。

「何を惚けて居るんだ?」

という冷たい言葉にやっと我に返る。そして、そんなアルの様子を気にすること

なくバットマンである男は、言葉を続ける。

「で、来てすぐと言った様子じゃないようだが、仕返しに来たわけでもないのに

どうしていつまでも覗いていたんだ?何か用でもあったのか?」

「鎖が興味を持ったのはどんな人物か気になった。それに・・・」

アルが聞いても良いものかどうか分からず言いよどむと、焦れた男に顎をしゃ

くり続きを促される。

「・・・一人いるのが気になったんだ。ついさっきまで、その・・・相手といっしょに

いたような様子だったから、どこに行ったのかと思って・・・。」

その言葉に含まれた意味を読みとった男は音がしそうな勢いで顔を赤くした。

「・・・相手とはなんのことだ?」

それでも赤い顔のまま震える声で頑固にしらをきる。

「でも、どう見ても情事の事後と言った様子にしか見えない。」

開き直ったアルが言い切ると、自分の姿を見下ろし反論が無駄であることを

悟ったようだった。軽く息を吐き、

「今更否定しても無駄だな・・・。お前が気にしている”相手”は今、ちょっと、人

助け中だ。」

「人助け?」

「まあ、そのうち戻ってくる。席を外しているだけといったところだ。しかし相手

を見ていないということは、情事の最中は覗いていなかったんだな?」

イタズラっぽく瞳を踊らせ尋ねる男に、アルは焦って否定をした。

「当たり前だ!最中を覗いたりなんかしない!!そんな気配がしたら、いくら鎖

が興味を持っていても引き返す!!!」

「それはそうだな。それにそんな場面を覗いていたら顔を割るくらいじゃすまさ

ない。」

笑いながら言っているが、目が笑っていないところを見ると本気なのだろう。

アルはこの男、バットマンに対して覗きなどをしたことを心底後悔した。

「悪かったよ・・・。覗いたことは謝る。もう許してくれ・・・。」

肩を落としつつ謝ると

「もうこんなことはしないことだな。」

そう偉そうに言われたことで、どうやらお怒りが解けてきたらしいことを感じ取

る。アルはこの隙にとっとと帰ろうと踵を返した。するとその背中に

「帰るのか?」

という声が掛けられた。

「・・・・・・?鎖も興味を満たせたようだ。相手がもうすぐ帰ってくるんだろう?邪

魔する気はない。」

そう言って帰ろうとするが

「そう言わず少し寄っていけ。もうすぐ帰ってくると言っても、しばらくは帰ってこ

なさそうだ。シャワーを浴びて寝てしまおうと思っていたのに、眠気がどこかへ

行ってしまった。要因はアル、お前だ。」

偉そうに言っているが、要は暇つぶしに付き合えと言うことだろう。アルが反論

しないでいる内に、ソファーを指さされ結局そこに座り、バットマンがシャワーを

浴びてくる間待たされることとなった―――。

 

     *   *   *   

 

 それほど長い時間待たされることはなく、シャワーを浴びたバットマンが戻っ

てきた。湯上がりのほのかな温みと共に漂う石けんの良い香りに、アルは視

線を向けソファーから落っこちそうになった。

 どうしてあんなに短いバスローブをきているのだ?おかげで引き締まった長

い足は、大分上の方まで見て取れる。合わせ目も緩く、あのコスチュームでは

陽に当たることがないであろう白い胸元が大きくはだけた格好で、未だ滴の垂

れる髪をぬぐいながら近寄ってくる。

 アルは男相手だと思いつつも落ち着かない気分になり視線を彷徨わせた。

「酒?それともソフトドリンク?」

掛けられた声にやっとこ自分を取り戻す。

「どちらでもかまわない。この身体には関係がないからな。」

その答えに肩を竦めたバットマンは、バスローブのまま備え付けのミニバーで

飲み物を作り始めた。どうやら服を着るという選択肢はないらしい。

彼が動くたびにめくれるバスローブに、あるかないか分からない心臓を止めら

れそうになりながら、アルは飲み物ができるまでの時間を耐えた。目の前に飲

み物が置かれると肩の力が抜ける。

「夜も遅いからな。アルコールはそんなに入っていない。」

用意された飲み物は、ブランデーを垂らした紅茶だった。マスクをはずし不器

用に啜ると、温かな湯気が顎を優しく濡らす。味など気にならないはずだが、

ほのかなブランデーの香りと紅茶の温かさは、身体に染み渡る気がした。空

調のきいた部屋の中にいてもそれらは感じ取ることができた。

「・・・こんなのを飲んだのは久しぶりだ・・・。」

「そうか?まあ、路地裏で飲む飲み物ではないな。それよりその顔を縫ってあ

るのは靴ひもか?」

「ああ。医術の心得があると言った仲間にやってもらったらこうなった。これで

も特に不自由はしていない。」

「ふむ。まあ、マスクをかぶるしな。食事は?」

「関係ないからな。この身体では。」

短いやりとりで納得したのか、バットマンは手をのばしその縫い目に触れてき

た。

「もうくっついているようだが取らないのか?」

焼けただれた皮膚を自然に触られたこと、いい匂いのする身体がすぐ近くに

あることに、アルは大きく目を見開いた。

「と、とくに不自由はないんだ。本当に。気が向いたら取るかもしれない。」

多少声が震えてしまったのは仕方がないだろう。

「物好きだな。」

「放っておいてくれ。」

その拗ねたような答えにバットマンが笑った後、穏やかな沈黙が訪れた。

アルは紅茶を啜りながらも、ついつい目の前の男に視線をやってしまう。ことも

あろうに足を組んで座っている男は、もちろんバスローブの下には何も身につ

けていない。

際どいところまでが覗き、そこにも赤い印が散っているのが見て取れた。よほ

ど相手は彼に夢中らしい。しかしそんなところにまで普通痕がつくだろうか。今

まで考えていなかったが相手は女性ではないのか?アルには想像もつかない

が、この男ならば違和感はない。と、ある名前が記憶の奥から浮かび上がる。

思い出してしまうとどうしても気になり、沈黙をやぶって尋ねてみた。

「バットマン」

「なんだ?」

「相手っていうのは、前に言っていた”クラーク”っていうひとか?」

危うく紅茶を吹き出しそうになっているその反応を見れば、答えは聞かなくとも

分かった。

いままで反論することもできずにやり込められていたお返しが、少しできて満

足したアルは、空のカップを置くと立ち上がった。

「ごちそうさま。そろそろ”家”に戻るよ。クラークと仲良くな。」

言い終わると同時に飛んできた灰皿は、重い音を立てて床に転がる。よけな

ければそれなりのダメージを受けていただろう。

「ではまた。バットマン。」

何か言われる前にバルコニーから外へと飛び出した―――。

 

     *   *   *   *   *

 

 自分の住処に帰ってきた後も、久しぶりに味わった温かなものが体内に残っ

ているようだった。

 今夜くらいは悪夢を見ないで済みそうだと思いつつ、マントにくるまりアルは

目を閉じた―――。

 


 

恐れ多くも書いてしまった。

ミラーやんのスポーンとバッツのコラボが大好きです!

最凶高嶺の花すぎる蝙蝠様にもうめろめろ。

被害を被りまくっているスポさんには申し訳ない限りですが・・・(笑)。

スポさんは単体受けだけど嗜好は基本ノーマルそうです。が、バッツ相手には

攻め臭いです。

全ての男に総受けか!なのに微妙に言動は攻め臭い!!さすが女王様!

スポさんに関しての知識はかなり曖昧ですが、地味に日本語版を集めてま

す。

だってよくブックオフとかでたたき売られてるから、ついつい保護を・・・。

アンジェラとかと絡むスポさんはホントかわいいv

だって寝顔がかわいくて起こさなかったとか言われてる・・・。

さすが単体受け!

 


よろしかったらポちりとお願いしますv






























































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