〜 The age of the moon 2〜

 

 「やあ、こんばんはブルース。」

 いくらこの地下室が闇に包まれていようとも、辺りに漂う濃厚な血の香りに気付かないはず

がない。しかし、クラークはいつもと変わらぬ口調で、むしろより親しげに話しかけてきた。

 私は彼がいったいどこに足を踏み込んでしまったのかを分らせなくてはならなかった。

「・・・去れ。ここは神父の、人間の来るべきところではない。」

 そこまで言ったところで、扉から光が差し込む位置まで歩み寄る。この位置であれば血に

染まった私の姿がよく見えるだろう。手にはたった今命を奪ったばかりの哀れな獲物がまだ

握られている。

「このような姿になりたいか?命が惜しくば去れ!」

姿をさらし語気強く言ったのにもかかわらず、クラークがその場を動く気配はない。が、

「・・・人間か・・・。」

 そう言ってうっすら笑みを浮かべた男は立ち去るどころか、こちらへと近づいてくる。その顔

に浮かぶ笑みは、いつもとは違いどこか暗さを秘めている。いつもと変わらぬと思ったのは

間違いであったようだが、彼をこのままここに居させるわけにはいかない。少々手荒な手段

が必要なようだ。

 ヴァンパイアの跳躍力を生かし一気に距離を詰め、その喉元を締め上げると同時に壁に

叩きつけた。

「長生きを望むならば、人と”そうでないもの”との境界線を踏み越えるのはやめることだ。

・・・もう一度だけ言う。去れ!」

相当な力で壁に縫い止めているはずなのに、クラークは苦しそうな表情をするどころか、笑

みを深める。

「家畜で餓えを満たすようなあなたが、人間に手を掛けられるんですか?・・・ああ、どちらにし

ろ人間じゃないか。」

私は首を締め上げるように壁に張り付けにしているのだから、呼吸もままならないはずなの

に、彼の口からは笑い混じりの静かな声がこぼれ落ちる。彼の反応と言葉に怪訝な顔をした

瞬間、私は弱者であるはずの彼に弾き飛ばされていた―――。

壁に押さえつけていた力などものともしないような、圧倒的な力によって無様に床に這う。

「・・・な!!お前は何者だ・・・!?」

衝撃のあまり立ち上がることも忘れて、呆然とクラークを見上げる。動く気配のない私に対し

て近づいてきた彼の瞳は、闇の中であるにも関わらず鈍く光る。普段は夏空色であるはずの

瞳が赤い輝きを放っていた。

「人間ではないですよ。ただあなたとも違う。僕は太古からこの星に存在してきた。僕以外の

仲間がいるのかどうか、今はもう分らない。ただ、人間は僕たちのことをこう呼ぶ。”ウルフマ

ン”とね。」

笑いながら、赤い舌がぺろりと唇を舐める。その際に白い牙がわずかに見えた。

「神父が、ウルフマンだと・・・?」

未だ私の頭の中は混乱を極めている。

「そう。僕たちは満月の夜以外普通に生活できるから、良い隠れ蓑になる。誰も最も神を敬う

男がウルフマンだなんて考えもしない。でも、満月の夜だけは別だ。どうにも獰猛な餓えが

押さえられなくなる。だからこの姿でその餓えを満たすんです。」

そう言いながら髪を後ろになでつけ眼鏡を外した男は、普段の穏やかで優しげなイメージか

らはかけ離れた、捕食者のイメージの顔になる。誰も同一人物とは気が付かないだろう。

「餓えを満たす・・・?・・・っっ!!まさか人を襲うのか!?」

思い浮かんだ光景に、勢いのまま立ち上がり胸ぐらを掴みあげる。もともと、クラークの方が

一回りほど体格が良いため、互いの力を隠さない今彼の身体が浮くことはないが。

「まあ、人間相手に餓えを満たしていますが、それはあなたが思っているような意味じゃない

ですよ。」

この状況下で全く余裕を失わないクラークに苛立ちがつのる。答えを強請るように、掴む力

を強めると軽く肩を竦められた。

「抱くんです。」

「・・・?」

「突き動かされる衝動のまま、抱くことによってこの餓えは散らすことができるんですよ。あな

たを襲う餓えより対処しやすいんです。」

人を殺めていたのを否定するその答えに掴んでいた手を離し、再び距離を取った。

「・・・で、私の正体を見てどうするつもりだ?人々に触れ回り糾弾するか?屋敷に火をかけ

る?もし、そうするのならば、せめて事前に教えて欲しい。アルフレッドだけは逃げて欲しい

からな。なに、私は逃げたりしない。屋敷と共に灰になるさ。」

 彼が人間でなかったとしても、私の運命を彼が握っていることには変わりはない。この間の

居たたまれなさから、口から勝手に言葉が滑り出る。

「何を言っているんです?そんなことしませんよ。だいたい正体を知ったのはあなたも同じじ

ゃないですか。それに、あなたの正体は大分前から知っていましたよ。」

その言葉に今度こそわからなくなる。

「・・・では、なんのために此処へ?」

彼はしばし黙り込んだ後

「・・・・・・取引きしませんか?」

「取引き?」

「ええ。実はこの街で餓えを満たすのもいい加減面倒になってきたところです。万が一誰か、

気が付くかも知れないし、同じ人間と二度会うことはないから綺麗どころもそうは続かなくな

る。」

彼は何を言おうとしているのだ?話が読めず怪訝な顔をしていると、

「まだ、何を言いたいかわかりませんか?」

と困ったように聞かれる。こんな会話から言いたいことを読みとるのは無理だ。少しばかりむ

っ、として睨むと

「では、単刀直入に言います。あなたが満月の度の私の餓えを満たして下さい。」

「・・・・・・な・・・何を言っているのかわからない。」

餓えを満たす?私が?まさか・・・!

「簡単なことですよ。その身体を私に差し出して下さい。そうすれば代わりにあなたへは”血”

を提供します。」

「馬鹿な!そんなことをしたら・・・!」

「私は”ウルフマン”ですよ?あなたが血を吸ったぐらいでは何ともない。ましてや満月の夜

だ。一番力が強まるこの日に血を吸われたくらいでは傷も残りませんよ。どうですか?この取

り引きは。あなたはこれ以上家畜を殺して血を飲む必要がなくなる。あなたのことだから家畜

から血を吸うことですら、心を痛めていたのでしょう?」

図星を指した言葉に、反論が出てこない。

黙ったままの私に焦れたのか、クラークが再び質問を繰り返す。

「取引きしますか?」

どこか甘さを含むその誘いは、手の中の命を奪わなくて済むことであり、私にとって抗いがた

いものであった。小さく顎を引くと、それを了解の合図ととった男に有無を言わさず抱きしめら

れ唇を奪われる。最初から貪るようなそれにすぐに息が上がり、抵抗のために添えていたは

ずの手は、気付くと彼の服を握りしめていた。すっかり放心していた私に、

「今日は満月です。さっそく今日から取引きを始めましょう。」

と言うなり、抱き上げられる。

「いきなり何をっ!っっおろせ!!」

「ベッドではなくて固い床がお好みですか?経験がないのにいきなり床でするのは、辛いと思

いますよ。」

彼なりの気遣いなのだろうが、図星である以上にその直接的な表現が、なけなしの抵抗すら

奪う。

「寝室はどっちですか?」

尋ねられ素直に場所を教えると、ウルフマンの能力かあっと思う間もなく、ベッドの上へと連

れて行かれる。

上にのし掛かられ身動きもできないまま

「あなたに逃げられでもしたら困るから、血はこの後で好きなだけどうぞ。」

そう耳元に囁かれると、従来の負けん気がよみがえる。

「・・・逃げたりなどしない。」

「そうですね。あなたはそういう人だ。では遠慮なく・・・」

首筋に吸い付かれると、自分のものではにような高い声が喉から漏れた。

この晩これより後に私の口から意味のある言葉が紡ぎ出されることはなかった―――。

 


取り引き!狼男はこうやって餓えを満たす設定が好きなのでコレで!

坊ちゃまの方が明らかに割に合わんと思いますが、坊ちゃまなので気付かない方向で。

この坊ちゃまは、人と接触するのを避けていたのでもちろん未経験です。

経験豊富なクラークにおいしくいただかれると良いヨ!

 




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