前回の出会いの日から数日たちましたが、
オビ=ワンは腹違いの姉である三の君の夫である
蔵人少将の衣装を縫わされていて、
ろくに部屋から出ることもできませんでした―――。
その日も朝からオビ=ワンは繕い物に追われていました。
「ピッ、ピポッ、ピーー。」
「ああ、R2。どうしたんだい?・・・え、手紙?」
オビ=ワンがわけもわからずその手紙を開いてみると、そこには、
『君ありと聞くに心をつくばねの見ねど恋しきなげきをぞする』
(大意:美しい方がいらっしゃると聞き、
まだお逢いはしないけれど恋しい気持ちで悩んでいます。)
という文が香の薫りも馨しい紙に、美しい筆跡でしたためられていました。
「お逢いしたこともないのに、恋しいなんて・・・。随分と遊びなれた方みたいだね。
美しいなんてこんな嘘っぱち、どこから聞いたのだろう・・・・?
・・あ!R2君の仕業だろう?」
確信を突いたとばかりに尋ねると、
「ピーーーっ、ピピっ!!ピー、ピー、ピーー!」
必死の弁解が返ってきました。
「あははは。そんなに弁解しなくても怒ってなどいないから大丈夫だよR2。
気にかけてくれているだけで嬉しいよ。私のためを思ってのことだろう?」
「ピ〜〜〜。」
「それに、私なんかに本気になる人などいないよ。こんな身形だしね。」
そう言った後、イタズラっぽい笑みを浮かべ、
「こんな遊びなれた手紙を頂いてしまっても私は、それほど遊びなれていないから、
どうすることもできないな。今は、縫い物で手一杯だから返事も書けない。そう、
お伝えしておいてくれないか、R2。」
そうおどけて言いますが、どこか笑みが寂しげです。
そんなオビ=ワンをただ見てるしかないのはとてもつらくて、
R2はなんとしてでもこんな境遇からオビ=ワンを救い出してみせると決意を新たに
するのでした―――。
「さてと、やっとこ一段落だ。少しだけ手が空いたから、久しぶりに庭を散歩して
くるよ。来てくれてありがとうR2。」
うーん、と伸びをして立ち上がると、薄い着物から白い首筋をのぞかせながら、
うれしそうに庭に出かけて行きました―――。
秋も深まってきたせいか紅葉も大分進み、色鮮やかな秋の風景を楽しめるのも
後わずかでしょう。とても冷たく感じられるようになった風に吹かれ、葉がひらひら
と舞い落ちています。
オビ=ワンは澄んだ庭の空気を胸いっぱいに吸い込みました。どことなく香ばしさ
を含んだこの空気を存分に堪能できるなんて、オビ=ワンくらいなものでしょう。
普通の姫君たちは格子越しに眺めるのがほとんどで、めったに外を歩いたりなど
しません。
そう考えると今の境遇もそう悪いことではないように思えてくる
オビ=ワンなのでした―――。
しばらく澄んだ空気を堪能していたオビ=ワンでしたが、このまま散歩をするの
なら、お供にリキをと考え、
どこかにいるはずの愛犬に呼びかけました。
「リキーー!リキー!」
すると前方の茂から、ガサリっ、という音と共にリキが飛び出してきました。
オビ=ワンに駆け寄ってきます。
「びっくりした・・・。お前こんな近くに居たんだね。たまには驚かせないようにでて
来れたりしないのかな?」
オビ=ワンが笑いながらしゃがんで頭をなでてやると、
リキは腕の中にぐいぐい頭を押し付け甘えてきます。
時折リキが顔を上げたときに首筋に触れる、湿った黒い鼻の冷たい感触に
くすぐったさを感じながらも、目を細めて幸せそうに頭を擦り付けてくるリキに、
しばらくそのまま撫でてやっていました―――。
しばらくそうしていましたが、オビ=ワンに完全に身を預け、安心しきって甘えていた
リキが突然立ち上がりました。
びっくりしたオビ=ワンが何事かとリキを見ると、オビ=ワンの背後に向かって
しきりに尻尾を振っています。
ゆっくりと振り返るとそこには先日の青年が立っていました――。
二度目の出会いです。
アニーはこのチャンスをどうするかしら・・・。
原作では初夜まで会いません。
大して進んでないんですが続きます(汗)。
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